(産地の声)vol.1708(産地の声) 2025.7.23
有機農業で先駆者だった埼玉県小川町の金子さんが亡くなってもう2年ほどになる。その金子さんとはおよそ40年前に出会いがあり、以後、親交を続けてきた。
30年前にそれまでの活動を踏まえつつ「命を守る農場を」と言う題で本を出版。農業はいのちを紡ぐ仕事であり、農は命を守ると同時に自然環境をどう守るかという課題も連動する。人間の自立という事で言うと、飼っている乳牛やニワトリの糞からメタンガスをつくり、燃料の自給を目指し、夏場はほぼ食事や風呂などのエネルギーを自給するほどまでだった。環境を守りつつ、人としての自立を図る。その為に現実を直視し、夢を語り、努力実践する人だった。
語り合った中で、どうも日本人は命を守ること、農業に対する思いが他国民と比べて関心がない、ということで頷き合った事がある。またレイチェル・カーソンの「沈黙の春」が著したように、農薬散布が生き物を死に絶えさせる現象が指摘され始めた事なども話題として、また将来の人間のいのちの存続に関わる問題として語り合った。
私も欧州やアジアを歩き、彼も有機農業研究会の発表などで各国を歩いた経験から現代の日本人の食と農に対する意識の低さが気になったのだ。
昨年からのコメ議論を思うと、場当たり主義、価格主義の論調が支配している感がする。人間は食べたものでできている。その食べ物はいわば母なる地球の恵みで得ることができている。値段がどうあろうと食べ物がなければ生きることができない根源的な意味を持っている。もっと言えば人間も自然物だ。
養老孟司さんがたびたびその著書で、「私たちの将来は田んぼだ」と発信している。太陽や森や土壌、そして空気、水の天然資源あっての我々人間の生存環境が保障される。そうしたことが認識されていない。
ところで天然記念物であるツシマヤマネコからPFASが検出されたことが、愛媛大学の研究チームによって判明したという。有毒なポリ塩化ビフェニール(PCB)も確認、チームはいずれも高濃度としており健康被害が懸念されるという。
また週刊誌報道だが、プラスチックゴミがマイクロチップとなって海洋汚染を引き起こしているが、人間の卵子、精子の中にも紛れ込んでいる、との報告もある。報道は、選挙報道一色だが、命に関わることが見えない形でいろいろな生命体に影響を及ぼしていることが地球的レベルで進行している。人新世の資本論の斉藤幸平さんではないが、2030年問題ではなく、それは既に始まっているのだという事への強い認識が必要ではないか。孫子の代に続く生き方が問われている。
byおかげさま農場・高柳功