食べ物は生存基盤なのに

(産地の声)vol.1585 一農家のつぶやき。         2023.3.7 

 日の光が日一日と強くなってくる。それに反応してか育苗ハウスのトマトやナスも目に見えて生長するのがよく分かる。

 それでも夜はハウスを閉めてトンネルビニールをかけて電熱線で保温する。朝一番に朝日と共にハウス内のトンネルを取って、換気窓を開けて適温を保つのだが、その後TVを見たら酪農農家へのインタビューだった。

 

 政府の規模拡大の推進事業にのって規模拡大したら、牛乳を捨てざるを得ないと排水溝に絞ったばかりの牛乳を流した画像に衝撃を受けた。コロナ禍もあるが急に減産しろと言ってもそうはいかないのが牛飼いであり農業なのだ、と。

 コロナ禍での学校給食やら団体食堂の消費が一気に減っての余り現象だという。政府の規模拡大、増産政策に応えて規模拡大した結果が廃棄や乳価の低迷、そして餌の値上がり、電気代や資材費の高騰、生まれた子牛は十分の一の値下がりなど三重苦だ。政策に応えて規模拡大したが「はしごをかけて、はしごを外されてようなもの」という。一昨年は一千万円、昨年は2千万の赤字で、このままでは来年は持たないだろうと。欧米ではそんなとき救済策で政府が買い上げ、保管や貧困層への食料援助など方策を講じている。政策に責任を持つ。

 以前にも似たようなことがあった。私の隣町の友人だが、3町歩の田んぼを作っていた。そこに政府の規模拡大政策もあって、国が推進するのだからと国の融資で2町歩の田んぼを買って5町歩の稲作農家となった。

 ところがである。その後、数年で減反政策が始まった。そして減反割り当てが4割となった。ちょうど規模拡大で借金して増やした分だけ作ってはいけない政策が彼の経営に直撃したのである。役所、農協、そして村役などを動員しての減反推進である。

 彼に聞いた「減反はしてるの?」「いやしてない。ちょうど規模拡大した分2町歩を作るなと言うことだが、そのために融資という名の借金が2千万円あるんだ。その借金を誰が返してくれるんだ!」と。

 似たような話はもっとある。農政がノーセイの典型である。そんなだから農民は子供を農業を継がせないようにしてきた。結果が自給率3割の国になり、さらにそれは深刻な事態を迎えることになると思える。なぜなら現状の担い手平均年齢は七十歳なのだ。日本国民に問いたいのだが、誰が作ったものを食べてゆくつもりですか?と。生存基盤をおろそかにしていいんですか?。夢想であってほしいと思うのだが、いかがだろう。         おかげさま農場・高柳功